システムがん

システム的統合理解に基づくがんの先端的診断、治療、予防法の開発

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究 (複合領域:4201)
研究期間:平成22年度~平成26年度
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A01-8-23 公募研究

リン酸化プロテオミクスを用いたがん細胞特異的シグナル伝達機構の解明

  • 研究代表者: 杉山 直幸(慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特任講師)
  • 連携研究者: 石濱 泰(京都大学 大学院薬学研究科 教授)

研究室ホームページ http://www.iab.keio.ac.jp/jp/

がん細胞では、チロシンキナーゼ受容体の過剰発現や調節機構の損失などにより正常細胞と比較して細胞分裂に関わる様々なシグナル伝達経路が活発化している。がん治療薬の開発において、プロテインキナーゼはその標的分子として、近年非常に注目されている。本研究では、ナノ液体クロマトグラフィー-質量分析法(nanoLC-MS/MS)を用いたリン酸化プロテオーム解析によりタンパク質のリン酸化を網羅的に同定、定量し、がん組織に特異的、または過剰に亢進しているシグナル伝達経路や関与するプロテインキナーゼを明らかにする。本研究で得られる知見は、がん治療薬開発において新しい創薬ターゲットの発見の手がかりになると考える。

研究代表者の杉山らは、リン酸化ペプチド濃縮法(Hydroxy Acid Modified Metal Oxide Chromatography:HAMMOC 法)の開発と、その手法を用いたリン酸化プロテオーム解析技術の確立を行ってきた。培養細胞を試料としてリン酸化プロテオーム解析データの蓄積を行い、ヒトタンパク質において現在70000 個以上のリン酸化部位を同定している。一方で、組織を試料とした解析手法については条件の最適化が不十分であり、またリン酸化プロテオーム解析により得られる膨大なデータから有用な情報を短時間で読み取り、それをイメージとして表現することも課題である。本研究では、組織試料のリン酸化プロテオーム解析法の最適化を行い、がん組織のリン酸化プロテオームデータを蓄積することにより、がんにおけるシグナル伝達のメカニズム解明と、モデル構築やシミュレーションのためのデータを提供できるプラットホームを確立する。また先行している計画研究班との連携により、リン酸化プロテオームの定量データをシグナル伝達経路上にマッピングすることで変動パターンを可視化するツールの開発を行いがん特異的シグナル伝達の抽出を行う。

本研究では、最初に組織のリン酸化プロテオーム解析における試料調製法の最適化と、前分画法や改良したLC-MS 分析法の検討を行い、リン酸化ペプチド、リン酸化部位を最も効率よく観測するための分析システムを確立する。また、得られたリン酸化プロテオミクスデータを可視化するために、がん細胞と正常細胞で見られたリン酸化レベルの比較定量値をシグナル伝達経路上にマッピングするツールの開発を研究支援班のサポートを得て行う。最適化した試料調製法用いてがん組織と正常組織のリン酸化プロテオーム解析を行い、各タンパク質におけるリン酸化レベルをアミノ酸部位ごとに定量解析する。蓄積されたデータからがん組織で顕著にリン酸化されているタンパク質、アミノ酸部位を抽出し、開発した可視化ツールによりがん特異的なシグナル伝達経路を明らかにする。がん特異的なシグナル伝達経路は既知のパスウェイ情報を用いるだけでは見つからないことも予想されるため、ソフトウェアCSML pipeline 等を用いてパスウェイ解析を行い、がん特異的シグナル伝達経路を推定する。がん特異的なシグナル伝達経路の中からがん治療薬の標的分子となりうる候補タンパク質とそのリン酸化部位を決定する。該当するリン酸化部位を含む合成リン酸化ペプチドをエピトープとした抗体を作成し、がん細胞やがん化マウスなどに投与を行い、がん細胞の増殖抑制効果を調べ、リン酸化プロテオーム解析によるがん治療の新規標的分子探索法として有用であることを検証する。

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