システムがん

システム的統合理解に基づくがんの先端的診断、治療、予防法の開発

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究 (複合領域:4201)
研究期間:平成22年度~平成26年度
[English]

 

A01-6-23 公募研究

メタボロームを代謝ネットワークへ統合する数理モデルの開発

  • 研究代表者: 倉田 博之(九州工業大学情報工学研究院生命情報工学研究科 教授)
  • 連携研究者: 曽我 朋義(慶應義塾大学環境情報学部 教授)

研究室ホームページ http://www.bio.kyutech.ac.jp/~kurata/
CADLIVEホームページ http://www.acdlive.jp

がん細胞は、がんに特徴的な代謝変化が誘導されて、正常な組織にはみられない低酸素やグルコース飢餓状態などのストレスに曝されており、エネルギー代謝が劇的に変化しているので、代謝システムを薬剤の標的にする重要性は非常に高い。実験と理論の両面から、がん細胞と正常細胞の遺伝子レベルでのメカニズムの相違を同定して、その制御方法を開発する必要がある。そのために、細胞の代謝系とそれを調節する遺伝子制御ネットワークに、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム(代謝物濃度)を統合して定量的に理解することが必要である。申請者は、 化学量論式を用いた方法で、トランスクリプトームやプロテオームを代謝ネットワークに結合して、代謝流束を推定するアルゴリズムを世界ではじめて開発した。 しかし、メタボロームを用いて、がん細胞徳知的な代謝構想活性分布の変化やそれに関わるトランスクリプトーム変化を解析する定量的研究は行われていない。

本研究課題では、 化学量論式に基づくアルゴリズムをさらに発展させて、がん細胞のメタボロームデータを代謝流束解析に統合する数理モデルを開発する。細胞内において測定の難しい動力学バラメータ値を用いないことに独創性と特色がある。 提案した数理モデルを実装する代謝システム予測シミュレータを開発して、がん細胞特異的な酵素活性分布や代謝流束分布変化を予測する。 代謝酵素遺伝子群やそれらを調節する遺伝子群を創薬対象にして、がん細胞を制御する新規戦略を提案し、「システムがん」研究の発展に貢献する。 研究成果は、申請者のホームページから公開する。

平成23年度は、 ヒトの代謝パスウェイと関連遺伝子調節ネットワークを構築して、 代謝反応の化学量論式モデルを作成する。トランスクリプトームやメタボロームの実験データを収集する。メタボロームの実験データは連携研究者から提供される。 定常状態において、メタボロームを化学量論式モデルに統合して、酵素遺伝子発現分布の変化を予測する数理モデルを開発する。 具体的には、代謝流束分布ベクトルと代謝物濃度データを関係づけるための新規な行列を導入して、定常状態における代謝流束の収支式を作成して、それを拘束条件とする。この拘束条件下でがん細胞に適合する目的関数を発見して、それを最適化することによって代謝酵素濃度分布の変化をシミュレーションする。数理モデルの特徴は、 測定の困難な動力学的パラメータを利用しないことである。 平成24年度で、遺伝子発現分布の推定値と、トランスクリプトームのデータを比較して、開発した数理モデルの実用性を証明する。最後に、 数理モデルを代謝システム予測シミュレータに実装して、がん細胞特異的遺伝子発現変化や流束分布変化を推定して、代謝システムを標的としたがん細胞増殖の抑制戦略を提案する。

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