システムがんアウトリーチ 「名古屋大学医学部鶴舞祭」2011年6月11日~12日

がんとスーパーコンピュータ!

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名古屋大学医学部の高橋隆です。

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東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの宮野悟です。

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【28】2011年5月19日、「京コンピュータ」が世界一になりました。 【29】ここにそのスパコンが入っています。神戸にあります。私たちもこのペタコンのプログラムを開発しています。【30】今、私たちが使っているヒトゲノム解析センターのスパコンです。75テラフロップスの性能です。ディスクは1ペタバイトあります。
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【31】私たちのゲノムは平均でDNA300文字に1か所の割合で少しずつ異なっています。 【32】パーソナルゲノム時代が到来しました。2年後には「私のゲノム」を10万円でシークエンスできるようになると思います。【33】 がんのゲノム異常も世界が連携して調べています。2万5千のがんサンプルのゲノムと末梢血の正常ゲノム、あわせて5万人分のゲノムが解析されます。
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【34】がんは、ゲノムに生じた複数の遺伝子異常が複雑に組み合わさって、自分自身で増殖命令を出し、外からの増殖停止命令を無視し、浸潤・転移により健康なところへ飛んでいき、無限に細胞分裂を繰り返しながら、その生存と増殖のため勝手に血管を作りまくり、がんをばらまき、壊れているにもかかわらず自滅するシステムが機能しない、システムであることが明らかになりました。血管新生は、それを遮断することで「兵糧攻め」にできるため、がん治療法の基本概念のひとつになっています。【35】血管新生に関する多くの研究があり、生物学的な仕組みの一部が見えてきました。これが血管新生を操っている分子のネットワークです。とても複雑です。私たちが開発したCell Illustratorというソフトウェアで表示しています。【36】私たちのゲノムには個人差があり、個人ごとに異なった環境因子にさらされています。そして、がんの場合、数十~数百か所のゲノム異常があり、これらが、先程の血管新生の分子ネットワークの少なくとも十数倍の複雑さのネットワークにからまっています。だれにでも効く抗がん剤や治療法、予防法をつくることは無理でしょう。
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【37】 パーソナルゲノム時代が到来し、大規模臨床サンプルの網羅的オミクス(ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなど)解析により、画期的な分子標的治療薬、診断薬、予防法が開発されることが大きく期待されています。【38】 しかし、いまシステムとしての複雑さの例をあげましたが、そこには大きな距離があり、分子生物学などのパラダイムと従前規模のデータ解析だけでは到達できません。あらたな融合領域が必要です。【39】 私たちはその限界を超えるためスパコンでがんのシステムをハックしようと考えました。ちなみに、スパコンをハックすると逮捕されます。
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【40】そこで高橋先生をはじめ、がん研究者と私たちがいっしょになって新たながん研究のパラダイムを作ろうと決意しました。【41】この7人の研究者です。【42】スパコンでどのようなことができているのか少しご紹介します。
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【43】がんの再発に関与する遺伝子を選んできて、個人個人の遺伝子発現プロファイルデータからその人の再発リスクを推定する方法を開発しました。再発リスクの軸にそって並んでいるのがそれぞれの人の遺伝子発現データです。右に小さな字がならんでいるのが、関連する遺伝子名です。再発リスクの高い人では、右上の遺伝子群の発現が高くなって(赤く)おり、右下の遺伝子群の発現は低く(緑色に)なっています。再発リスクの低い人では、これが逆転しています。【44】この解析には数百人のがん検体が必要です。それぞれの人について、その遺伝子発現プロファイルデータから再発リスクを計算します。これはパソコンで計算できます。再発リスクスコアに基づいて、その値の低いほうから高い方へ並べます。再発リスクの視点から、隣り合っている遺伝子発現プロファイルデータは「近い」と考えられます。【45】1人の人のデータだけからは、その人において遺伝子の制御関係がどのようになっているかを推定することは困難です。しかし、その人を中心にして全部の人のデータの重みづけをして、その全部の人のデータを使ってスパコンのパワーを前提とした独創的な数理モデリングの方法で、スパコンを1ケ月まわして計算すると、その人個人の遺伝子ネットワークをあぶり出すことができます。これがそのネットワークです。左が再発リスクが最も低い人のネットワーク、右は再発リスクが最も高い人のネットワークです。ボワーとしてわかりませんね。そこで、ネットワークのハブ構造に着目し、ハブの大きさや抑制や活性化の構造に大きな違いのある遺伝子に着目していくと・・・
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【46】 再発リスクの最も低いがんと最も高いがんでは、CTGF (Connective Tissue Growth Factor 結合組織増殖因子)とよばれる遺伝子の周りのネットワーク構造が大きく異なっていることがわかります。こうした解析でそれぞれのがんの個性を暴き出し、適切な治療法を見いだす鍵となればと思っています。これはスパコンではじめて見えてきた世界です。【47】伊能忠敬は4000万歩あるいて日本地図をつくりました。今では、衛星を使った技術などによって地球の地図が日常的に作られ、Google Mapのように、私達はその情報に基づいてナビゲートし、レストランをを探し出したり、買い物をしています。私達はがん細胞について計測したデータから、そのがんのシステムの地図作りをすることで、これまで一歩一歩、歩いて作るしかなかった分子のネットワークを一挙に見ることができないかと考えています。【48】これはメラノーマ細胞に抗がん剤タキソールを投与して、24時間にわたって時系列で遺伝子発現データを計測し、メラノーマの細胞内で時間を追って、どの遺伝子からどの遺伝子群に指令がでているかを見ようとしたものです。数理モデリングの方法はダイナミックベイジアンネットワークに非線形回帰を組み与わせた方法です。スパコンは1024コアを使って計算しました。
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【49】タキソールを投与して1時間後、タキソールの標的遺伝子の1つであるTubulin alpha-4A chainとタンパク質と相互作用することが知られているRBM23という遺伝子が大きなハブになって影響を与えはじめました。【50】2時間後、乳癌において既にタキソールが効かないことの鍵となっている遺伝子として知られているTXNIPがハブになりました。【51】4時間後、このTXNIPやEGR1からたくさんの遺伝子に指令が出ている様子が見えています。
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【52】6時間後、乳がんにおいて既にタキソールの耐性遺伝子として知られているCYR61が活発になっていることがわかります。EGR1も影響を与え続けています。このように、抗がん剤という「国難」に遭遇したがん細胞において、時間とともに変化する「がんの政局」が見えてきます。 【53】最後に、一言。これからの10年に向けてこの本を是非読んでください。米国でヒトゲノム計画を遂行し、2009年からNIH (National Institute of Health)の所長になったフランシス・コリンズ博士の著書です。【54】ゲノムは人それぞれで少しずつ異なっています。SMAPの歌で言えば「世界にただ一つの花」です。さらにがんは同じがん種でもそのゲノムはさらに多様になっています。「私のゲノム情報」は、がんなどの病気をはじめとしたさまざまの病気の効果的な治療や薬の副作用を避けるために重要な情報です。DNA情報に基づいた個別化医療、これがこれからの医療のキーワードになると考えています。ご清聴ありがとうございました。

プロテオーム解析の実験室の見学

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これからプロテオーム解析の見学にいきます。 この質量分析器を使うとがん細胞にどのようなタンパク質が含まれているか、1000~3000種類ぐらいのタンパク質を同時に調べることができます・・・(向こう側に見えている青い装置) 試料はここに入ってきます。そしてこの装置を実際に動かしてみると・・・
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タンパク質がリアルタイムで検出されます。1秒間に10個のタンパク質を同定することができます。 これがタンパク質の理論値で、左側が実測値になります。データベースを検索することでどんなタンパク質が含まれているかがわかります。 このようにして、たとえば、転移しなかったがん細胞には含まれているが、転移したがん細胞からは消えてしまっていたタンパク質を調べることができます。先ほどの講演の中ででてきたがんの予後予測などに用いることができます。

次は遺伝子発現を調べるマイクロアレイ解析の実験室の見学です

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マイクロアレイ解析の実験室へ移動します。 これが遺伝子発現プロファイルデータをとるためのサンプルで、ピペットマンという30マイクロリットル・・・、真ん中にドロップしてきれいなまん丸を作るのですが、あぁーえへへ・・・こんなことをやってもらいます。 「私にもできますか?」どうぞ。まず、こうやるんです。
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そして・・・ はい、とってもよくできました。 このサンプルとチップ(遺伝子発現を計測するチップ)をこれからくっつけさせます。
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この60度の箱の中に入れて、ローターがはいっていて、ぐるぐるまわします。数時間、場合によっては一晩中回しています。 これが終わったら、これにはいろいろなものが入っているので、水のようなもので洗ってやります。いろいろテクニカルなことがあるんですが・・・さきほどくっつけたものだけが張り付いてきます。 そして、これをこのスキャナーにいれて読みます。これは埃がきらいなのでカバーをしています。これが48枚はいります。
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これが先ほどくっつけたものですが、これをスキャンした画像がこれです。小さなスポットが2万から3万ある遺伝子に対応していて、光ぐあいの強さが遺伝子の発現量になります。このままではよくわからないので、拡大してみると・・・ 黄色になっている遺伝子は転移するがん細胞と転移しないがん細胞、どちらでも発現している遺伝子になります。赤色は転移するがん細胞のみで発現している遺伝子で、緑色は転移しないがん細胞のみで発現している遺伝子になります。 色の光ぐあいの強さが遺伝子の発現量に対応し、これを数値化します。そしてコンピュータでいろいろな解析をします。 「がんとスーパーコンピュータ」の講演のなかででてきた遺伝子発現プロファイルによる肺がんの予後予測や、抗がん剤に反応する遺伝子ネットワークの推定にはこうした数値データが使われています。

参加者の感想

参加人数:6月11日(土)20人(満員)、6月12日(日)14人

  1. 面白かった 11人
  2. やや面白かった 4人
  3. やつまらなかった 0人
  4. つまらなかった 0人
  1. 高まった 13人
  2. 変わらない 2人