A02-3 計画研究

メタボローム解析に基づくがんの代謝の理解、診断法の開発

研究室ホームページ http://metabolome.iab.keio.ac.jp/jp/

がん細胞は酸素が存在するのにも関わらず、解糖系を亢進してエネルギー分子であるATPを生産する (Warburg 効果)。何故がん細胞がエネルギー効率の悪い解糖系を使うか、また、グルコースや酸素の供給源である血管のないところで増殖するがんはどのようにしてエネルギーを生産するか等、がん細胞のエネルギー生産には未だ謎が多い。

本研究は、メタボローム (代謝物の総称) 解析とシステム生物学的解析によって、がん細胞のエネルギー生産経路を特定し、抗がん剤の新規ターゲットを探索しようするものである。これまで、細胞内の代謝物は、イオン性低分子が大半を占め、測定が困難であった。研究代表者の曽我らは、キャピラリー電気泳動-質量分析計 (CE-MS) によるメタボローム測定法を開発し、エネルギー代謝経路など数千種類の代謝中間体の一斉分析を可能にした。本法によって、大腸や胃のがん細胞でも解糖系が有意に亢進すること、また大腸がんは、回虫などが嫌気条件下で用いる経路で ATP を生産していることを示唆する新規知見などを得た。しかし、膨大なメタボロームデーからどの代謝経路が変動しているか、どの代謝調節機構が働いているかの解釈は極めて困難であった。

本研究は、曽我らが取得したメタボロームデータを領域代表者の宮野らが開発した生体分子ネットワーク推定技術用いて、膨大なメタボロームデータの中からがんの代謝やその調節因子に関わる複雑なネットワークをスーパーコンピュータにより解析し、がん細胞に特異的なエネルギー生産経路やがんの生存戦略に関わる分子ネットワークを抽出する。さらに稲澤らが開発してきた統合的ゲノム・エピゲノム解析によって、がんの個別化診断バイオマーカーや治療標的分子シーズとして有用な遺伝子・パスウェイを同定するというシステム生物学的解析法を用いて、効率的な抗がん剤の新規ターゲットの発見を目指すものである。

過去の情報

2010年度